トンボの羽化とその撮影
2021年5月某日。我が家に二匹のヤゴがやってきた。ヤゴとはトンボの幼虫のことである。
二匹のヤゴは、娘と妻が赤虫を食べさせたり水換えをしたりと甲斐甲斐しく世話をしていた(私はといえば、同時期に我が家にやってきたメダカのほうの世話が中心となっていたのだが、それはまた別の話)。
1ヶ月ほど経った6月のある日、一匹のヤゴが羽化した。気づいた時には既に羽化が済んでいた。推定羽化開始時刻は午前2時半ごろ。家族全員が寝静まっているあいだに羽化したのだ。立派なオオシオカラトンボのメスだった。
…それから遅れること10日ほど。もう一匹のヤゴが羽化を始めた。
「羽化しそう」
午前0時30分ごろ、妻に起こされ、我が家に残っているヤゴを見に行く。
暗闇だ。
事前に“羽化の途中で明かりをつけたら羽化に失敗した”というネットの情報を見かけていたので、明かりはつけない。ネットの情報なので真偽は不確かだが、羽化の成功に万全を期す。窓から入る外の微かな光だけが頼りだ。
たまたま家にあったEOS R6を手に取る。最高ISO感度は102400と、暗闇での撮影でも申し分ない。ステマでもない。
問題があるとすれば、三脚が無いというハード面の問題と私の撮影技術があまりにも未熟だというソフト面の問題だ。何が言いたいかというと、これから紹介する画像の質があまりに悪いのは決してCanon様のせいではない、ということである。
羽化に備え、ヤゴ用水槽は大きめの竹カゴの中に置いてある。 水槽には角度を変えて3本の割り箸が立ててあり、その1本の先端までヤゴが上り詰めたところ。 写真が明るく見えるのはISO 102400の力。EVF(電子ビューファインダー)とはいえ、ほとんど真っ黒な画面で手ブレしながらピント合わせをした。三脚欲しい。 | |
殻を割って頭が出てきた。割り箸に登ってから30分ほど経過している。 実はこのヤゴ、片方の前脚と片方の後脚の跗節(先端)が欠けている。それもあってか時間をかけて何回も何回も脚の掛け方を直していた。羽化の途中で落下でもしようものなら、死に直結することもある。文字通り命懸け。それを本能で分かっているのだろう。 | |
胸あたりまで出てきた。 | |
ピント調整が難しかったので、物理的に近づいて撮影。気門の脱皮殻とでも言うべき気管が白い糸のように延びている。 | |
頭も脚もトンボのそれ。ヤゴの体のどこに収まっていたのだろう。 しばらくはこの体勢で体を乾かす時間。 | |
頭を持ち上げて自分の殻に掴まる。トンボの本に書いてあるとおりの手順。でもヤゴは本を読めない。本能として行動がプログラムされているのだ。すごい。 | |
翅が伸びてきた。頑張って体液を翅に送り込んでいるのだ。 | |
だいぶ翅が真っ直ぐになった。 | |
翅脈がはっきりと見えるようになった。翅は緑色に輝いて見える。 | |
腹も真っ直ぐになってきた。 | |
腹が透き通っているように見える。 | |
体の模様がはっきりしてきた。見紛うことなき“トンボ”だ。 もう羽化は成功と言っていいだろう。ということで寝る。 | |
朝。 翅を広げている。翅も体もちゃんと乾いている。 種類はオオシオカラトンボのよう。先に羽化した方もオオシオカラトンボだった。偶然にも二匹ともオオシオカラトンボだったのだ。 | |
竹カゴをどかしてみる。先に羽化したオオシオカラトンボは微動だにしなかったが、こちらは何かあるたびにビクッと驚いたような反応を示す。 思えば、この子はヤゴの頃から怖がりだった。餌を遣ろうとしたら逃げたり。ヤゴにも性格はあるんだ。そしてトンボになってもその性格は変わらないようだ。 | |
この写真は諸事情によりiPhoneで撮影。 生まれた地で飛び立つ。 実は、自宅にいる時に部屋の中を飛び回ったのだが、その時は飛び方がかなり下手だった。 しかし、自由を手に入れるこの瞬間、飛び去る姿は堂々たるものだった。 ただ、自由は危険と隣り合わせだ。長生きしてくれれば…。 |